今回の綾町訪問の目的は2つある。ひとつは大学の学生とともに一昨年から続けている綾町の自然生態系農業の環境保全効果(有機農業の環境保全効果)に関する研究を続けるために、有機農業開発センターを訪れること。もうひとつは役場職員を対象とする環境マネジメントシステム(LAS−E)に関する研修を行うためである。
10:00発のSNA(スカイネットアジア航空)便で宮崎に飛び、多比良くんが空港でレンタカーを借りて車で綾市街に12:30頃着いた。役場前のうなぎ屋で昼食をすませ、14:00頃から環境マネジメントシステムの事務局である企画財政課のNさんと打合せをした。打合せは16:00頃には終わったので、照葉樹林の大吊り橋を見に行った。これまで綾にはバスで行っていたので、バスの通っていない吊り橋へ行くのは5回目の訪問で始めてである。車で役場から山あいの道を10キロ弱走って着いた。結構人が来ている。入場料を払わなければならないが、さすが噂に聞く吊り橋だけあって雄大である。下を覗き込むと怖い。しかしバックの照葉樹林があってこその吊り橋である。改めて照葉樹林も守った郷田前町長をはじめとする綾町の人々に敬意を表したくなった。照葉樹林の中をハイキングできるようになっているが、日暮れ近かったし、明日の研修のパワーポイントがまだできていないので、早々に引き上げて吊り橋の横にある資料館を覗く。派手さのない素朴な建物で、照葉樹林にマッチしていた。
翌日、8:30に有機農業開発センターを訪れた。有機農業開発センターは町の農林振興課の施設だったが、本体の農林振興課が今年4月から有機農業開発センターの建物に移ってきて合体した。昨年センターの所長だったMさんは、今年度から農林振興課長と所長を兼務している。そのためか非常に忙しそうで、今回も宮崎で打合せがあるところを無理を言って朝一番で時間を取ってもらった。今年卒業研究のテーマとする芝浦工大4年生のTくんが、やや遅れてやってきて合流した。
昨年までの研究では、綾町で生ごみや家畜糞尿を堆肥化して使っていることで、化学肥料を使うよりも5割もエネルギー消費やCO2を削減できていることがわかったが、今年は農作物を栽培し収穫するまでのエネルギー消費量を推計したいのと、収穫された農作物を綾町民がどの程度食べているかを調べることで、地産地消がどの程度実現できており、農作物輸送にかかるエネルギーを節約できているかを調べたい。そのための調査方法についてアドバイスや協力をM課長にお願いするのが目的である。農家対象の調査についてアドバイスをいただき、さらに町民対象の調査については企画財政課のM課長(こちらもM課長)に相談すると良いとアドバイスを受ける。昨日ご挨拶したばかりだ。
有機農業開発センターを10:30で辞し、役場横のほんものセンターへ。綾産の農産物を求める人で相変わらず賑わっている。お目当てはこの2階にある観光案内所と併設されている喫茶店の野菜ジュースであるが、なんと2階に行く階段は封鎖されている。店の人に聞くと向かいの建物に移ったという。向かいの建物の前より少し開放的な空間になっていた。子供の時から野菜ぎらいだった僕でもここの野菜ジュースは大好きで、まさに「ほんもの」の味である。ここから企画財政課のM課長に電話し、ちょっと相談があるので時間を取ってくれませんか」とお願いしたら、すぐ来ても良いとおっしゃった。
企画財政課のM課長は快く迎えてくれ、町民に対するアンケートについては水を守る会代表のNさんが町内で環境保全活動をやっているので頼んでみたらという。今日Nさんにお会いできませんか、と言ったら「すぐ役場に来てくれ」と電話してくれた。お会いしてみて、なんだ、NさんはLAS−Eの目標設定チーム、監査チームの町民委員としてお願いしていたので、面識があったではないか。Nさんは綾町女性のつどいの代表もやっており、町内22地区の主婦にお願いすることはできそうな話だった。正式なお願い文や調査票を後日作成しM課長を通してお渡しして検討してもらうことになった。この手の調査をやるのにはいろんな段取りを踏まなければならず時間がかかるものだが、半日でしかもアポなしでここまで話が進んだのはとてもありがたいことである。良い研究成果を出して綾町や綾町民の皆さんに還元したいと思う。
役場向かいの大衆食堂で昼食を取り、学生Tくんはここで町内見学のため別れる。13:30からは約1時間半、役場3階の会議室で職員研修をしたが、参加者が20名程度とやや寂しかった。この後、多比良くんが堆肥工場を見たいというので、企画財政課のNさんに案内してもらった。16時頃着いたので1日2回の生ごみ搬入は終わった後だった。ここで企画財政課のNさんが、堆肥工場建設時の担当者だったことが判明。僕は見るのは2回目だが、古い堆肥工場から現在のものに建て替える経緯などを説明してくれたので有り難かった。
19:40のSNA便で宮崎空港を出る。ちょうど高校野球を中継しており、地元宮崎の佐土原高校が勝ったようだ。僕が訪問した訪問したときに試合をしている地元の県は必ず勝つというジンクスは生きている。
今日から2泊3日で、綾町に行く。1日目の午後と2日目の午前は、4件の農家にお伺いする。一昨年から始めている、有機農業の環境負荷低減効果に関する研究で、有機農業の農作業にどれくらいの燃料を使っているかをお尋ねするためである。10時発のSNAで羽田を出て、宮崎空港でレンタカーを借りた。運転するのは今年これをテーマに研究するT君である。目的地を綾町役場に設定し、ナビの指示通りに進むのだが、タイミングが微妙にずれていて文字通り右往左往しながら、1時過ぎに綾町役場前に着いた。役場向かいのうなぎ屋さんで昼食を済ませ、最初の訪問先Hさん宅に向かった。「尾立」という集落なのだが、ナビでは場所がわからない。付近の人に聞くともっと下の方の育苗センターの近くだという。やっとのことで育苗センターを見つけたのだが、周囲には家がなく全くわからない。育苗センターから出てきた車を捕まえて再度聞こうとしたら、乗っていたのはなんと、今回の農家を紹介して頂いた、役場の農林振興課のM課長(兼有機農業開発センター長)だった。場所を丁寧に教えてくれ、他の場所もわかりにくいから後で寄れば住宅地図をコピーしてくれると言う。大変助かった。
ほどなくHさん宅が見つかったが、Hさんのお父さんの家だった。息子の家は向かい側で今、畑に出ているという。しかしほどなくHさんが戻ってきた。Hさんは福岡の大手企業に勤めていたそうだが、そこを辞めて実家に戻ってきて農業を始めたそうだ。事前に送っておいたヒアリング調査票に沿って、農作業の種類ごとの1ヶ月のだいたいの燃料費を聞いていった。それから農地や農作業に使うトラクターや小型管理機などの農機具を順番に見せてもらった。こちらは素人なのだが親切に教えてもらった。
次の訪問先はIさん宅である。IさんにはT君が何度電話してもつながらないのだが、時間は約束しているし、Hさんに場所も教えてもらったのでともかく行ってみることにする。山の奥へそろりそろりと入っていく。途中、斜面で農作業している人がいたので、Iさんのお宅はどこか聞くと、それがIさんの奥さんだった。息子さんも一緒に農作業をやっている最中だった。Iさんの奥さんはヒアリング調査票に記入して待っていてくれた。元は東京の赤羽に住んでいたそうだが、綾町に移り住んで有機農業を始めたそうだ。畑では実にいろいろのものを作っており、ほんものセンターなどへ出しているそうだ。手押しのマルチ被覆機など農機具も見せてもらった。
今日の最後の訪問先のKAさん宅は17:30の約束なので、山を下って有機農業開発センターまで戻り、M課長に住宅地図にKAさん宅に印を付けてもらう。町の堆肥センターの近くのようだ。もう暗くなった山の中を進むと、それらしい一軒家を発見、ブザーを押すと奥さんが出てきて、まだ仕事から戻らないという。中に入って待たせてもらうことにした。Kさんは別の仕事の傍ら農業をやっているようで、今は奥さんと二人だけで住んでいるようだ。ほどなくKAさんが戻ってきて話を聞くことができた。奥さんがお茶を出してくれ、しきりに大根の漬け物を勧める。漬け物は苦手なのだがせっかくだからいただく。Kさんがほどなく帰ってきて話を聞くことができた。おみやげにミカンまでもらった。今日はこれで終わりである。いつもの綾川荘は満室だったので、その下にあるサイクリングターミナルに泊まる。
今日は朝9時にKIさんの奥さんと畑で落ち合うことになっている。場所は昨日、M課長に地図に印を付けておいてもらったのだが、だだっ広い畑の中では場所がなかなか見つからない。ハウスで作業している人に聞いたら、向かいの畑ですよと言う。KIさんは居なかったが、しばらくして現れた。KIさんは結構大規模にやっているようで、今までJAに出していたが、コープとの契約栽培を始めたそうである。畑を一通り見せてもらった。
午前中はまだ時間があったので、ほんものセンター向かいの喫茶で、例によって野菜ジュースを飲みながら、T君に作業の指示をする。T君はほんものセンターで有機農産物でできた弁当を買って、別の集落の調査に向かった。僕は向かいのいつもの食堂で昼食を取った。綾牛鍋うどんを注文、これが結構いける味だった。
午後からは、綾町初のLAS-E第1ステージの監査である。多比良くんが13:30ごろ到着、町民監査員のNさん、Mさん、Oさんと役場職員のNさん、Mさん、Aさん、Iさんと、今日の監査メンバーが揃った。それにオブザーバーとして長崎大学のEさんが駆けつけてくれた。まず助役と環境管理事務局(企画調整課)の監査を全員で行ったが、特に問題はなかった。次に本庁舎と少し離れた健康センターへ急行した。健康センターでは裏紙や封筒利用など細かい配慮がなされていて大変良かった。次に訪れたのが中央公民館の中にある教育委員会で、ここは有名な自治公民館活動の拠点である。学校教育部門と生涯教育部門で部屋が分かれており、環境マネージャーのいないほうの部屋の職員は独自目標について答えられないなど一部認識不足が見られたのが残念だった。
役場本庁舎に戻り、町長のインタビューの予定だったが、町長はまだ出張から戻っていないので、数人で待つことになった。6時すぎてから前田町長のインタビューを始めた。町長とは今年5月の環境自治体会議いいだ会議でお会いして以来である。多少混乱が見られたものの、何とか会議で指示したことを思い出して頂いて事なきを得た。
今日は4つのグループに分かれての監査である。町民監査員はKZさんが加わって4人になった(全員女性)ので、各グループ1人ずつ町民監査員が居ることになる。僕は町民で農業をしているOさんと、町職員のMさん(女性)と3人で回った。このときわかったのだが、Mさんの実家は昨日時間が合わなくてお会いできなかったHさん宅だという。ヒアリング調査票を送れば後で実家に頼んで記入してくれるという。偶然とは恐ろしいものだ。
最初の監査先は、農林振興課(兼有機農業開発センター長)である。またまたM課長へのインタビューである。特に問題もなく終了した。午後に行ったのは中坪保育所である。園長さんはとても熱心であり、保育士さんの意識も高かった。ここは3個所ある保育園の昼食を調理する調理場が併設されている。各保育園で余った食べ残しを集めて来る。その量はポリバケツ一杯だけであり、その量の少なさには驚いた。また園児の利用する水道の蛇口を閉めやすいような器具を取り付けて、節水に努力しているのには感心させられた。
本庁舎に戻って、環境管理事務局のある企画財政課の監査を行った。ここでは環境影響のある事業の情報公開が心配だったが、年度初めの広報で公共事業のリストを全戸配布し、さらに地区別懇談会で周知しているとのことで申し分なかった。役場と地区の自治活動が一体となった綾町ならではの取り組みである。本庁舎のごみ箱も見たが、LAS-Eに取り組む以前は再生可能な紙だらけだった可燃ごみ袋にはほとんど紙は含まれていなかった。また生ごみは役場の敷地内でコンポストされていた。環境への取り組みが確実に進んだことをまさに実感した。
どの班も監査は順調に進み、早めに会議室に戻って監査結果のまとめをした。判定結果の整合を取るためのチームミーティングでも町民監査員の方が積極的に発言して結果の整理が進んだ。研修の欠席者への伝達や環境方針・目標の理解が不十分なセクションが複数みられたが、全部門を通じてはおおむね良かった。
有機農業や照葉樹林の町として全国的に有名な綾町でも、役場における紙・ごみ・エネルギーの抑制といった足下の環境配慮が不十分であったが、これで名実ともに環境自治体としての第一歩を踏み出したといえるだろう。